「令和」時代を迎えるこの春、日本の伝統文化への関心が、国内外問わず一層高まっています。今回の春期展は、日本の伝統芸能を代表する「能」が持つ幽玄の美を、明治大正を通じて能画の名手として活躍した月岡耕漁が、世界に誇る「浮世絵」の伝統技術を近代的に発展させた超絶技巧で表現した「能楽百番」を大公開!月岡耕漁は、最後の浮世絵師・月岡芳年を義父に持ち、尾形月耕・松本楓湖などに日本画を学び、展覧会などで受賞を重ねた絵師。能画に傾倒し、皇室献上作品の他、現在でも国立能楽堂・東京国立博物館などにも作品が収蔵され、海外では画集も出版されています。耕漁の代表作である「能楽百番」は、関東大震災による11ヶ月の中断を挟み、4年以上の歳月を掛けた、全100図120枚(目次・色紙を除く)の大型シリーズ。上質の和紙に数十回もの摺りを重ね、雲母や金銀泥を贅沢に用い、さらに筆のかすれも再現して、能が宿す典雅な雰囲気を見事に表現した再現不可能な傑作です。是非この機会に、八戸の街かどで、日本の伝統文化をご堪能下さい。
(なお、本作は「能楽」と題されていますが、「狂言」は含まれておらず、描かれた演目は全て「能」となっています。)
現在、ユネスコの無形文化遺産にも登録され、継承されている舞台芸術としては世界最古とされる600年以上の伝統を有する伝統芸能「能」。本展覧会は、月岡耕漁の「能楽百番」を通して、知ってるようで知らない「能」の世界に触れて頂くため、第一章では、能の歴史のほか、主に春を舞台とした演目を通して能特有の形式・表現方法などについてご紹介します。
「猿楽(能楽)」が式楽となっていた江戸時代は、「翁」の後に5曲(五座に割り当て)演じ、最後に祝言の能をつける形式が多かったと考えられています。以来、全ての演目が5種類に分類され(五番立)、神性の高い能から人間の情念へ展開し、最後に鬼の能で祝言性に戻るような構成となっています。五番立で演じられることがなくなった現在においても、上演順は五番立を重視し、演目の分類法としても定着しています。第二章では、この五番立の分類で作品をご紹介し、さらに、能の大成者としても有名な観阿弥・世阿弥の他、世阿弥の娘婿の金春禅竹、能の演劇性を高めた観世信光ら、能作者とその代表作についてもご紹介します。
「能楽百番」は、「浮世絵」で発達した絵師・彫師・摺師の分業体制を基礎とした伝統木版技術により制作されています。近年、日本の伝統木版文化の中でも「浮世絵」と「新版画」を結ぶ明治中期以降の素晴らしい作品群に注目が集まり始めています。昨年10月にNHK日曜美術館で特集された小原古邨(今年3月3日再放送)もその一人で、当館では昨年、明治150年記念として春と秋に分けて、小原古邨を含む約300点に及ぶ明治の多彩な作品群をご紹介しました。月岡耕漁の「能楽百番」は、古邨作品の多くを手掛けた版元・大黒屋最後の豪華大型シリーズで、明治中期以降発展した伝統木版文化の一つの到達点ともいえる作品です。第三章では、「能楽百番」に繋がる明治の伝統木版文化の一端をご紹介します。
能の演目は、一から創作されたものの他、『伊勢物語』や『大和物語』『今昔物語』など様々な古典を題材に作られ舞台化されています。古典を重視した世阿弥は、その典拠・出典となるものを「本説」といい、能楽論の中でも演目の良し悪しの基準に「本説正しく」制作されることを挙げています。
なかでも、『平家物語』や『源平盛衰記』を典拠にした平家物語物は現行曲の二割を超え、源氏方の英雄譚よりも、敗れた平家の栄枯盛衰を通じて滅びの美学・世の儚さや人間の情愛を描くものが多くなっています。第四章では、平家物語物だけでなく、源義経や源頼光に関係する広く源氏と平家に関わる演目の他、不朽の名作『源氏物語』をテーマにした演目を中心にご紹介します
2019年春期展 月岡耕漁生誕150年記念 「能楽百番ー珠玉の伝統木版が奏でる幽玄の美ー」
会期 平成31年4月20日(土)~令和1年6月16日(日)
開館時間 10:00~17:00
休館日 毎週月・火曜日(祝日は開館)
観覧料 大人500円(400) 高校生・中学生以下無料
( )は10名様以上の団体割引料金
八戸市柏崎1丁目8-29 ☎0178-32-7737
後援/八戸市教育委員会 ㈱デーリー東北新聞社 ㈱東奥日報社
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